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+叶芽+
青天の霹靂。
青く青く、深い青に包まれた空が――突然太陽を隠し、空を黒々と染め上げて行く。
その様子を、俺は“あの日”初めて現実として見た気がした。
――プツリ、と。記憶が途切れる。
そしてまた、プツリ、と記憶が繋がる。
まるで‥ヘッドフォンの配線を、繋いだり、引き抜いたりして居る様な感覚だ。それが何度も何度も繰り返され……くるり、と回転する。
(何故、回転するのか――)
それを考えようとした所で、再びプツリ、と音を立てる。
青い青い空。熱さに歪み、滲んだ視界。
その向こう側で、こちらを見つめている……驚愕に見開かれた黒い瞳。
そしてまた、――プツリ、と音を立てて抜ける。
(俺は一体……)
俺は一体、何をしている?
そう考えた時、一瞬――プツリ、と白髪の誰かの悲しげな笑みが視界に映り込んだ。その瞳が、滲む視界の向こう側で、感情の篭らない瞳をこちらに向け、問いかけた。
『――を――いのか? ならば、私が――して――してあげよう』
ザザッ、ザザッと、不定期に入り込むノイズの音に、ヘッドフォンの向こう側の音は遮断される。
しかし、俺には彼が言いたい事の意味が瞬時に解った。
だから俺は………彼に、頷いたのだ。
◆
「叶芽先輩、……具が、こぼれてます」
「へ……、あっ!」
肌寒さが漂い始めた今日この頃。
あんみつ祭の準備もひと段落つき、夕方の部室で考え込みながら、乙月のおにぎりを食べていた俺は、彼の一言でハッと現実に引き戻された。
外へと目線を向けると、空が赤く染まり始めてしまって居る。
慌てて時計へと目線を向けると――四時だった。
風紀委員の部屋から退室後、急いで保健室へと向かった俺は『後夜祭には戻ります』と書かれた保健室の張り紙を前に、若干肩透かしを食らって居た。
仕方なく、そのまま部室へと戻り手伝いをしがてら昼食を取っていた――最中に俺は眠りこけてしまっていたらしい。
「夢、か」
「酷い魘(うな)され方でしたけれど‥、大丈夫ですか?」
「ああ、多分……色々と、悪い方向にばっかり考えてたから。悪夢でも見たんだろう」
白昼夢(はくちゅうむ)、という言葉もある。
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