Ⅰ、覚悟

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「情が移ったんだろうな」  誰に、とは虎は聞かなかった。  最初がどんな出会い方であったにしろ、どんな感情を持ちながらの共闘関係にあったにしろ。……それでも、人は時として共に戦い抜いた相手に、情を移してしまうことがある。  そして、恐らくそれは洋斗にも当て嵌まり、虎に対して何らかの罪悪感と、それから……長く過ごした飼い猫への情に似たものを感じて居るのだろう。  それになんと言っても彼は――見た目以上に、脆く弱い部分がある。 「ふ、ふふ」 「笑うなって、」  そんな彼の心情が理解できてしまった虎は、声を立てて笑った。  虎の無邪気な笑い声に、洋斗は若干不機嫌そうに口を尖らせ、ふと……あ、と声を漏らす。 「そう言えば、後でかなちゃん会いに来るって言ってたよ」 「――僕に?」 「ああ」 「会って良いの?」  目を輝かせつつ思わずそう問えば、黒い癖毛の彼はニヤリと意地悪く微笑んだ。 「食わない、って約束できるなら」 「……、」  その言葉に虎は返事を返さず、ただ意味深に口端を吊り上げた。 .
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