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「情が移ったんだろうな」
誰に、とは虎は聞かなかった。
最初がどんな出会い方であったにしろ、どんな感情を持ちながらの共闘関係にあったにしろ。……それでも、人は時として共に戦い抜いた相手に、情を移してしまうことがある。
そして、恐らくそれは洋斗にも当て嵌まり、虎に対して何らかの罪悪感と、それから……長く過ごした飼い猫への情に似たものを感じて居るのだろう。
それになんと言っても彼は――見た目以上に、脆く弱い部分がある。
「ふ、ふふ」
「笑うなって、」
そんな彼の心情が理解できてしまった虎は、声を立てて笑った。
虎の無邪気な笑い声に、洋斗は若干不機嫌そうに口を尖らせ、ふと……あ、と声を漏らす。
「そう言えば、後でかなちゃん会いに来るって言ってたよ」
「――僕に?」
「ああ」
「会って良いの?」
目を輝かせつつ思わずそう問えば、黒い癖毛の彼はニヤリと意地悪く微笑んだ。
「食わない、って約束できるなら」
「……、」
その言葉に虎は返事を返さず、ただ意味深に口端を吊り上げた。
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