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白い光と黒い光が明滅する視界の中で、扉を一身に受け止めた額を撫でる……と、そこで俺はある事に気がつく。
額の中心辺りに、急斜が出来ていた――というかコブが出来て居た。情け無い。非常に自分自身が情け無い。
まあそれは仕方ない、と。
若干涙目になりながら、俺は今の状況を確認すべく周囲へと目線を向ける。
どうやら、衝突はしたものの、尻餅をつくという無様な事にだけは、なって居ないようだった。
それが、俺にとっては唯一の救いなのだが。
「叶芽……?」
そして、そんな俺の視界からチカチカとした光が消え始めた頃、やっと俺は今の自分の状態を理解する事が出来た。
開け放たれた扉と、その向こう側に居る数日振りに見る、親友。
――それから、その向こう側で微笑んでいる洋斗。
(微笑む洋斗って、なんか怖い)
元々が元々なだけに、彼が“優しく微笑んで居る”と、何だか無性に背筋がむず痒くなるのだ。
まあそれは、とりあえず置いておこう。
当面の問題は、目の前で心配そうにこちらを見つめる“いつも通りの虎”の姿だ。
それに違和感を感じる事の方が、微笑んで居る洋斗よりも重要だと思える。
「叶芽、僕に会いに来たんでしょう?」
「……数日間、見てなかったから」
「僕が居なくて寂しかった?」
「部屋が静かなのは‥何だか変な感じだ」
虎の質問に素直に答えた俺に、虎は「そっか」と満足気に笑い、後方で視線を手元に落す洋斗へと振り向いた。
「ねぇ、奥の部屋に連れてって良いよね?」
「ああ。良いよ。――だたし、俺との約束を忘れなければ、の話だけど」
「洋斗と約束なんてしたっけ?」
「……おい」
うん?と首を傾げた虎の姿に、流石の洋斗も目線を上げて、飽きれたように目を眇めてみせた。しかし、虎と数秒目線を合わせた後で、諦めた様に片手を振る。
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