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直球な言葉は渚らしいが、この状況でその言葉は、その事実は言ってほしくなかった。今まで冷静に普段通りを貫き、振る舞っていた僕が崩れてしまう。
「…避けてなんかいませんよ。少し個人的に忙しかっただけです」
苦しい言い訳だと自分自身分かってはいる。しかし頭が上手く回転してくれないからか、良い返しが思い付かなかったのだ。
「避けてただろ」
「避けてません。被害妄想も程々にしてください」
渚の表情は納得には程遠く、心の奥底まで見透かしているような澄み切った黒い瞳は絶えず僕を観察していた。
渚の口が動いた。
「じゃあ意識してる?」
思わぬ単語に思考が止まる。煩わしいのは、自分の鼓動で、相手に誤解を与える落ち着こうとしない視線だ。
「……何に意識してるって言うですか僕が」
「俺に」
動いた唇が低く音をなぞって僕を惑わそうとしている。
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