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うだるような夏のとある一日。君は虫取り網を片手に、近所の雑木林を歩いていた。
家にいるときは、うっとうしいだけのセミの鳴き声も、今の君には獲物の居場所を知らせる重要な合図だ。
そう、君は虫取りをしていた。チョウチョ、バッタ、カマキリ、セミ……虫なら何だって構わない、という勢いで君は網を振り回す。
肩から提げるかごにはすでに何匹もの虫が入っていた。
しかし、君の一番の獲物はまだ捕まえることができていない。
一番の獲物。それは、カブトムシだ。
『おまえ、ばっかじゃねーの。こんな昼間にカブトムシなんかでるわけねーだろ』
虫取りに誘った友達の言葉が頭に浮かぶ。
今の時刻はだいたい一時過ぎ。まさに真っ昼間だ。こんな時間帯にカブトムシが見つからないことなど、君も十分理解していた。
しかし、それでも君にはカブトムシを探す理由がある。
それはクラスで二番目に可愛いエミちゃんの言葉だ。
『わたし、カブトムシが好きなんだ。ほら、あのツノとかカッコいいでしょ』
エミちゃんの明るい笑顔が君の頭に浮かぶ。
君がその言葉を聞いたのは偶然だった。クラスの女子の横を通り過ぎたとき、偶然耳にしたのだ。
カブトムシを捕まえてエミちゃんに見せれば、仲良くなれるかもしれない。
そんな淡い希望を胸に、君はこうして虫取りを続けている。
もちろん君も最初からこんな手段をとっていたわけではない。
初めは罠を仕掛けて早朝に見に行ったり、デパートに買いに行ったりしたのだ。
しかし、罠には何もかかっていなかったり、ゲームの買いすぎでお金が足りなかったり、とどれも失敗に終わったのである。
追いつめられた君の最後の手段が、この虫取りだったわけだ。
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