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雑木林にはたくさんの虫がいる。その中でも、特に多いのがセミだ。
君はすでにセミだけでも四、五匹捕まえていた。
まさに、セミ日和。
しかし、本命のカブトムシは一匹も見当たらない。当然といえば当然なのだが、あきらめの悪い君は必死の捜索を続けていた。
そんな辺りをくまなく探す君は、視界の端に何かを認めて止まった。
木の陰から少しだけのぞくピンク色。
目を凝らした君は、それがリボンであることに気づく。
興味がわいた君は、風に吹かれてふわふわと揺れるリボンへと近づいていった。
「こんにちは」
ピンク色のリボンは麦わら帽子についているものだった。
突然投げかけられた挨拶に驚きながらも、君も挨拶を返す。
疲れているのか少女はうつむきがちで、麦わら帽子に隠れて顔は見えなかった。
服装は白色のワンピース、それだけ。
雑木林に来るには不釣り合いな格好に見える。
「あなたは、どうしてここにいるの?」
少女はそう呟くと、今までふせていた顔を上げた。
日の光を浴びたことがないんじゃないか、と思うほどに白い肌。光を反射して美しくきらめく銀髪。白に埋めつくされる中、唯一色素を感じさせる紅い瞳。
綺麗だった。
彼女に木漏れ日があたる様子は幻想的ですらあった。
そのあまりの美しさに圧倒されて、君が何も言えずにいると、彼女は静かに立ち上がった。
「よかった。一人でさみしかったの」
彼女の身長は君と同じくらいだった。見上げることも、見下ろすことも必要ないちょうどいい大きさ。
もしかしたら君と同じ、小学四年生なのかもしれない。
「あ、セミがたくさん」
嬉しそうに呟いた彼女の視線は、君の虫かごに注がれていた。
君はそこから一匹セミを取り出すと少女に差し出した。
「……いいの?」
そう問いかける彼女に、君は小さくうなずく。
「ありがとう。君って優しいんだね」
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