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崩落する建物、四方八方で上がる炎、王都のかつての景観は失われ、他に残っているものといえば死体の山。
一方東の彼方を見れば敵の影が山を成している。
状況はあちこちで広がるその火を見るより明らか、進退窮る、その一言に尽きる。
そんな壊滅的な光景の中を走る影が2つ。
どうやら兵士らしく、1人はガシャガシャと重そうな鎧の音を響かせて走り、その前のもう1人はどうにか片手で扱えるやや大振りな片刃の直刀を肩に担ぎ、進路を見極め先導を務める。
玉砕覚悟で敵の大群へと向かうつもりか。
いや、ならば何故南方へ向かって走っているのだ。
そう彼らは今、決死の逃走の真っ最中。
戦士としての誇りなぞ知った事かと、全速力で王都の南方への逃走だ。
「ボーマン! もう防具は外せ! 俺達2人じゃ逃げるか死ぬかのどっちかだ!」
「分かったよ! こう言う時重装歩兵は損だよな! 畜生!」
その重装歩兵は防具を外すなり、かなぐり捨てながら走り続ける。
敵の魔の手は彼らの左方面、東部から次第次第に伸びている、さあ急げ!
「自分で言うのもアレだけど! 俺達相当見苦しいんじゃないか?」
「黙って走れボーマン! 死ぬよりマシだ!」
そうだとも、王都を守る志のもとに散っていった者達の遺体は其処此処に転がっている中をわあわあ喚き立てながら走っているのは相当にみっともない、見苦しい。
だが、彼らだって先ほどまでは命を賭して此処を守ろうとしていたのだ、そこを部隊が一瞬にして壊滅状態に陥ったとなれば逃げ出すのも当然といえば当然と言えなくもない。
無傷とは到底言えないが身体が動かせる程度の傷で済んだのだから、せめてその内に逃げようと彼等は判断したのだ。
「リカード! 左手の路地の先に今敵が見えた! かなり進行して来てる!」
どうやら敵は既に王都の半分辺りまで進行しているようだ。
王都の陥落も彼らが逃げ切れるかも、もはや時間の問題となりつつあった。
その事を2人は悟り始めたのか、それとも戦闘と此処まで走って来た疲労のせいか徐々に走る速度は下がっていく。
そして彼らの左手の家屋から破壊音を立てて前に現れたのは異形の存在、敵の魔物だ。
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