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「こりゃ通してもらえなさそうだな! どうする!」
リカードは目の前のその魔物をなるべく冷静に見る。
無数の黒い何か細い管のようなものが束となって人の形を成すそれ。
人の形とはいえ、その大きさは普通の人間よりもずっと大きかったし、顔なんてものは見受けられない、まさに影のよう。
それは明確な敵意を低い唸るような人の断末魔にも似た声でもって表している。
「足だ! 足だけを狙って一気に通り抜けるぞ! 俺は右をやる!」
得物だけを捨てずに持っていたのは良い判断であった、彼等は剣、槍をそれぞれ構え敵の懐へ潜り込むように走る。
人で言う手に当たる部分だろうか? その黒い塊のようなものが細い鋭利な槍状に変化しながら回転し、勢いよく伸び2人に向かって襲いかかる! よろめきながらそれをどうにか左右それぞれに逸れて2人は間一髪避ける。
次の瞬間、槍と剣の一閃のもとに両足が吹き飛んだ!
黒い影は踏ん張る事も出来ずに唸り声を挙げてうつぶせに倒れる。
「よっしゃ! どうだクソッタレ!」
「いいからとっとと逃げるぞ!」
2人は再び駆けだす、ようやく見えて来た南門へ向かって。
ようやく逃げ切る事が出来るか、両者がそう思った時だ。
絶望的な破壊音と共に建物を吹き飛ばし、再び立ちはだかったのはさっきのものよりもずっと大きな影。
見た目は狼に蜘蛛の足でも生やしたかのようで、不気味極まりない。
「……ここまでか?」
「……」
彼等は知っている、先ほどと同じようにこれは彼ら2人ではどうにもならない存在であることを。
戦意は喪失され、己の死を2人それぞれ認識し始めた。
声を上げる事すらかなわない、出来る事と言えばじりじり後ずさりする事のみ。
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