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だが彼らの背後からは既に別の敵が来ている! それに気付く余裕などないのだろう。
魔物が前の二本脚を掲げ今彼らを叩き潰さんとする時、再び爆音が響いたのは彼らの右手の建物!
次の瞬間その煙の中から何者かが飛び出したかと思えば、魔物を強烈な一撃のもとに叩き伏せた。
視界を遮る粉塵の中はっきりと見えたのは、鎧の頭部と思わしき部分。
おそらく視界を確保するために直線状に空いた隙間の部分が赤く光っているのが見えた気がしたが、それを確認する暇もなく次の瞬間にその存在は彼らの頭上を空高く跳躍していた。
一瞬に仰ぎ見たその全貌は、鎧を全身に着込んだらしい何者か。
鎧を人が装備しているというより、鎧そのものが動いているのではないかと感じさせる程に重厚、それでいて新雪の白銀の如く白く輝いて神々しい。
彼らの背後に重々しい音と共に着地するなり、手にしていた剣の一薙ぎで彼らの事を背後から襲わんとしていた魔物を横一文字に両断。
呆気にとられていると、彼らの事を気にする事も無くその者は再び空高く跳躍した。
そして空中で静止したかと思えば、その鎧の背中から出ていたのは翼のような光、あるいは光のような翼。
剣を握る右手とは反対の左手は、魔導を使用する際に見られる魔導光と呼ばれる青白い稲妻のような光を纏って燦然と輝く星のようにまばゆく煌いている。
そして右手を突き出したかと思えば、手のひらから放たれた光の一閃が王都の東へ沈み。
――爆ぜた、地面を揺るがして、空気を激震させ、閃光を王都全体に走らせて。
東に広がる敵の影の山は呆気なく吹き飛ぶ。
鎧を纏ったその存在は悠然と翼を広げ空中に静止したままだ。
茫然と逃げる事も忘れその光景をただ見ていることしかできなかった2人が、その存在を勇者だと知ったのは後の事である――
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