初めての

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一ヶ月後。 よく一ヶ月我慢した。 会社から逃げ出したい衝動を抑えて。 正式な退職を認めてもらい、送別会を開いてもらえた。 少しだけ寂しそうな良太の視線を受けて私は烏龍茶をチビチビと飲んだ。 仲が良かったのは良太とだけだ。 この会社に結局最後まで馴染めなかった。 それでも、今、ここで盛り上げてくれる同僚達に感謝の思いが溢れる。 送別会の後、一人暮らしのアパートに帰り、 「はぁーっ」 と溜め息をついた。 まずは家族に知らせなきゃ。 母に電話を掛けた。 「もしもし、お母さん?私だよ」 「おや、美夏、どうした?」 「私、退職したんだ……」 「まぁ!」 「大丈夫。貯金から生活費賄うから」 「次の仕事はいつ探すんだい?」 「……」 お母さん……私……本当は漫画家になりたいの。 憧れてたんだ。 ワクワクする世界へ人々をいざなう……素敵な職業だ。 「漫画家になるわ」 「美夏がかい?よしな!漫画家は稼げないよ!」 「やってみないと解らないわ!私、頑張る!!」 プツッ。 電話を切り、私は今電話していたケータイを見つめた。 私には、何も無いの。 だから漫画を描いて何かを得るのよ!今すぐ!!
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