192人が本棚に入れています
本棚に追加
/663ページ
「あの、王子。言い難いのですが」
「なに」
「あの、トマスのことなのですが」
「ああ……」
一気に不愉快な顔になる。
まあそうだよな。
「牢屋から出してあげてくれませんか?」
「僕としてはすっごく嫌だけど」
「その気持ちは分かってます」
「うん。それでも、マーツは牢屋から出してあげたいんだよね」
「ええ」
「んー……」
王子が深いしわを眉間に寄せる。
王子は小さな声をくぐもらせて呟いてるから、聞き耳をたててみる。
「すっっごい、嫌。でもマーツが。けど会わせたくないし。あの人嫌いだし。どうしよう。マーツにも嫌われたくもないし」
フフっ、考えてくれてるのが嬉しいな。
「小声でも聞こえてますよ」
「あー!! もう、やだ! マーツ、どうしたらいい!?」
「どうしたらって……」
真剣なのは表情で分かるけど、これを俺に聞くかなぁ。うーん。
「私自身、トマスとはもう会わないほうがいいと思ってます」
「うん、そっか」
ん、ほっとしてくれてるのか。声がやわらかくなった。よかった。
「俺はただ俺のせいで、他の人を不幸にさせるのが嫌だと思うだけです。俺を救い出してくれた王子は他の人にも優しくしてもらいたいなんて、我儘でしょうか」
「ううっ」
最初のコメントを投稿しよう!