奪われた日。遺された日。

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「わかり、ました。家族をお願いします」 王子はうなずいた。 「ううっ」 「父さん! 大丈夫?」 呻く父さんに気づいて近寄る。 「マーツか。無事か、良かった」 「父さんっ」 濁ったような、喉に引っかかるような不規則な息使いに不安になる。 「すまん。もう痺れて痛みが分からん。瞼が重たい」 「そんなこと言わずに、医者がなんとかしてくれるから。絶対助かるから」 「ありがとう、な」 「父さん? 父さんっ、目を開けてよ」 「肩、止血しなきゃ、どうしよう。そうだ。これ、使って。血止めてあげられる?」 王子が護衛兵に差し出したのは自分の胸にあるフリルの布だった。 「はっ」 護衛兵は肩を縛りあげて、二人がかりで馬車に父さんを引きあげた。 母さんも、マークも馬車の椅子にもたれかけるようになっている。 「ゆっくり馬車で運んであげて。それからマーツ。君は僕と、馬車のかじ取り席に座れるから、ここにきて」 「わかりました」 どうか助かりますように。 御飯の前にしか神に祈らないくらいの信仰心だけど、今は祈るしかできない。 お願いします。 家族を、助けてください。
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