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X氏は目を覚ました。
「懐かしい夢を見たな」
インスタントコーヒーの粉に沸いたヤカンのお湯を注ぎ入れ、懐かしい子供の頃を思い出した。あの頃は、どんなことでも出来ると思っていた。だから、帰り道に見かけた屋敷。そんな屋敷に住むこともできると、本気で思っていた。
今、思えば、馬鹿馬鹿しい夢を見たなとX氏は思う。わざわざ、そんな屋敷に住む必要はなかった。今、こうしてアパートの管理人として、小さいながらも、大きな家に住み自分の部屋を持つことができた。
寝室では愛しい自分の子供と愛する妻が寝ている。子供の頃に、思い描いた理想とは違っていたが、悪くない人生であり、X氏の心を満たしていた。
「そう言えば、二人はどうしているかな?」
X氏は友達の二人と別れたあとも、時々、挨拶状程度であるが手紙は出していた。もっとも、返事が返ってきたことは滅多にない。お互いに、忙しいのだろう。
「せっかくだ」
懐かしい夢を見て、子供の頃の気持ちを思い出したX氏は呑みかけのコーヒーをテーブルに置くと、箪笥にしまってあった葉書を取り出すと筆をとった。
会えなくなってしまったが、全員が夢を実現できたことを信じて、手紙を書く。
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