一両目 出会い

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◇ 二日目 事務所に行くと曳野は普通のスーツを着ていた。 『あれ?今日は車掌の格好じゃないんだ』 あれがスタンダードだと思っていた。 普通と言ってもスーツは黒で、シャツは深紅、白いネクタイ。 ハットをかぶっている。 “探偵物語”か! でも車掌姿よりマシ。 それにちょっとだけ曳野が格好良く見える。 松田ショータは無理だけど。 「今日は一日出かけるから」 「はい!」 早速探偵の仕事かと張り切った。 「留守の間、床にワックス掛けをしておくように」 ガクッ。 今日も掃除だった。 入所2日目で同行はないか。 曳野はさらに言った。 「鉄道グッズには触らないように。壊れたら大変だ。それと時間になったら帰っていいから」 曳野はどこに出かけるのかも、何時に帰るかも言わずに出て行った。 掃除しながら部屋内をよく見ると、いたるところに鉄道グッズがある。 この部屋には大きいものから小さいものまで鉄道関係のものが置かれている。 椅子のクッションもどこで買うのか電車シートの生地で出来ている。 本棚を見るとずらりと雑誌が並んでいるが、全部鉄道関係。 そして西村京太郎のトラベルミステリーがたくさん並んでいる。 曳野はバリバリの鉄道オタクだった。
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