一両目 出会い

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「約束の時間に間に合うかな」 私は時間を気にしながら、初めてとなる場所へ急ぎ足で向かった。 私、宇佐美 操(うさみ みさお)は中学校を卒業後、高校へ行かず、探偵学校へ入校した。 修了後、学校で公開されていた探偵事務所の求人票に片っ端から応募したが、16歳という若さゆえか、面接どころか書類選考すら通らなかった。 探偵学校に行くと波多野校長から校長室に呼び出され、「ここを受けてみない?」と一枚の求人票を見せられた。 どうやら就職先が決まっていない私を見かねたらしい。 「まだ求人が残っていたんですか」 「ええ。これでよかったら紹介状を書くけど、どうする?」 私は求人内容を手に取り読んだ。 《曳野探偵事務所スタッフ募集 : 職務内容 「探偵助手、炊事、洗濯、掃除」 所長 曳野 鉄(ひきの てつ)》 「炊事、洗濯、掃除ぃ~!!!???」 私は頭にきた。 「これじゃまるで家政婦じゃないですか!」 「ここに一応探偵助手って書いてあるでしょ」 校長は一番上の探偵助手の箇所を指した。 それでも私は納得がいかない。 「やっぱりこれはおかしいです」 「もうここしかないわ。曳野探偵をよく知っているけれど腕は確かよ。家事は付属業務だと割り切ってみてはどう?」 「・・・」 もうこれ以外に応募先がない。 修行しないでいきなり独立は無謀だ。 ここに応募するか、探偵を諦めるか。 人生の岐路だ。
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