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「本人はこれをいつ撮ったと言っていましたか?」
「特に時期は聞いていません。最近送ってくれたので、最近だと思います」
曳野は何か考える風に写真を凝視している。
おそらく男の顔じゃなくて、電車と車掌の制服を見ているのだろう。
この人がうらやましいのか?
「それで調べたいこととは?」
「私が彼について知っていることはそれだけで、住所を知りません」
「恋人なのに住所を知らないのですか?」
「はい。ネットで知り合ったからです。彼がこちらに来たときに3回会っています。あとはSNSのメッセージでやり取りしています」
「それって、信用して大丈夫ですか?」
「彼はちゃんと結婚を前提に付き合ってくださいと申し込んでくれました」
女性は言い張った。
しかしすぐ暗い表情になって心配そうに言った。
「でも、結婚となると、私は仕事を辞めて四国へ行くことになります。JR四国の社員ならいいかげんな嘘は吐かないと信じていますが、決めるにあたって住所と彼の身辺を調べて欲しいんです。他に女がいないかどうかなどを特に」
「分かりました。引き受けましょう」
「よかった」
女性は安心した顔になった。
「四国まで行かなければなりませんね。経費がかかりますが、いいですか?」
「構いません」
「この写真をお借りしていいですか?」
「はい。どうぞ」
女性が帰ると、曳野は早速時刻表を取り出した。
「四国は久しぶりだな」
まるで電車遠足にいく子どものような表情でニコニコして時刻表を眺めている。
飛行機を使う気は全くないようだ。
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