弾-丸-翔-子

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 10代とおぼしき若者に交じり30に近い達也が、よろよろしながらバイクを押している。自動車だったら押すなんて体力勝負の技能は求められない。しかも、自動車では脱輪や縁石に接触したら、エンストして止まるだけで済むのだが、バイクではそれにコケるという事態が加わる。それが殊の外彼を苦しめた。達也はこれが恥ずかしくて仕方が無いのだ。いくら恥ずかしくても、あちらでコケて、こちらでコケるのを止めることができない。当然のことながら、火が出るほど顔を赤くして戻ってくる達也に、教官はなかなか修了の判を押してはくれなかった。通常の2倍の時間をかけて、それでも検定にこぎつけられたのは、これ以上落としたら悪い噂が立つと、自動車教習所が判断したのに他ならない。  しかし、事情がなんであろうと関係ない。とにかく今日の検定を合格さえすれば、晴れてバイクライダーだ。…ところで結果はまだなのだろうか。達也は少し焦りはじめた。あまり長く病院を空けるとまずいことになる。落ち着かなくなってベンチから立ち、達也はロビーから教習コースを眺めた。見ると教官が多くのライダーを引き連れ、技能教習が始まっている。ライダーのひよ子たちがコケる姿を眺めながら、達也はなぜこんな無謀なことを始めたのだろうと、その動機を新ためて想い返した。  その日達也は、父が学会講演で使用する解説スライドの作成を言いつけられた。診療が終わった後の作業だから、一区切りついてパソコンから顔を上げると、いつの間にか夜が明けていた。考える作業を続けたので頭が興奮している。これでは寝付けないだろうと睡眠を諦め、愛犬のブルースを連れて早朝の散歩に出かけた。
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