いつの間にか始まる物語

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「はぁ…。」 教室の片隅。 少女は頬杖を付きながら窓の外を見ていた。 視線の先には青い空を飛ぶツバメが二羽。 視線を落とすと、学園の大通りの脇に咲いている桜の花びらが待っていた。 髪の色は銀色。 長さは腰まであり、変に手を加えることはせず、ストレート。 瞳の色は母親譲りの水色で、普通の人と比べると目尻が少し下がっている。 肌は白いが、普通の人と比べると、そこまでの白さじゃない。 身長は百六十前半で、年相応の体型。 特別胸が大きいわけでもない。 学園の制服は黒色のブレザーに、灰色のチェック柄のスカート。 赤いネクタイで白色のシャツ。 少女の名前はシオリ=アムウェイ。 今年から、このクリムト魔道士育成学園に通う十七歳。 学園は四年制で、十七歳から入学できることになっており、二十の頃に四年生になる。 兄や父の反対を押し切ってまで入学した憧れの学園。 だと言うのに、シオリの心境は外の晴れやかな景色とは真逆だった。 それは、先ほど終わった入学式が原因だ。 自分の1つ上の兄で、この学園の生徒会長。 小さい頃からずっと、そんな兄に守られてきた。 だが、その兄の頑張りは、いつも空回りしているのだ。 『いいか!!新入生!!もし妹に手を出すようなら、生徒会権限を最大限駆使して連帯責任を負わせるから覚悟しろ!!』と、入学式の壇上で、事もあろうかこんなふざけたことを言ってのけた。 「…(最悪…)」 周りに聞こえないよう、小声で言葉を漏らす。 思えば、兄がこうなってしまったのには自分に原因があるのかもしれない。 昔から体が弱く、その上泣き虫だったため、兄にはいつも甘えてばかりだった。 その過程の結果が、あんな兄を生み出した。 兄は私に近づこうとする人をも牽制し、親友と呼べる友達がいた記憶がない。 小さい頃は自分たちの姉替わりであるアイン姉や、父の使い魔であるノルさんに遊んで貰っていたが、中学の頃から私は『一人で頑張らなければ』と決意し、兄に邪魔されながらも友達を作ろうとした。 だが、その結果はあまり良くなく、結局中途半端なまま中学時代を過ごしていた。 そのため、人付き合いの仕方がよく分からず、人見知りも発動してしまってまだ誰とも話をしていない。
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