いつの間にか始まる物語

8/30
852人が本棚に入れています
本棚に追加
/1033ページ
「ホームルームのあとでこんなことを言うのもアレ…なんだけど…。…私はシオリ。あなたは?」 彼女は差し出された手とシオリを交互に見る。 そして、億劫そうに手を伸ばして、シオリと握手を交わした (小さい手…) 握った瞬間わかる。 彼女の手は自分の手の第一関節分は小さい。 声や挙動だけじゃなく、ここまで小動物を彷彿とさせるとは… 「え…エリーゼ、です。」 相変わらず本で口元を隠したままだ。 だが若干、照れるように耳が赤くなっている。 それを見たシオリは、ニッコリ笑う。 やっぱり… 私と同じで、人と話すのが得意じゃないんだ… かく言う私も、結構アガってる。 体が熱くなり、汗が出てくるんじゃないかと思える程だ。 喋ることが苦手な人間が集まるとどうなるか… 想像しただけでも地獄絵図だ。 でも、彼女相手なら、私もしゃべれる気がする… 恐らく、彼女が同い年ではなく、年下だと勝手に自己暗示をしているからかもしれない。 そうとも気づいていないシオリは、アガりながらも話をしようとした。 「一緒の中学だった人とかいる?」 「え、えと、その…。」 「はわわ」という擬音が聞こえてきそうなほどの慌てよう。 その様子がなんとも可愛くて、シオリはくすりと笑う。 「そ、そんなに慌てなくていいからっ。」 「わ、私がいた中学は…、そのう…ここからかなり離れてて…。この学園には、私一人だけで…。」 「そうなんだ。そこまでして、なんでこの学園に?」 「学園の近くに祖母が居て…。私が進路をどうしようか迷ってたら、この学園のパンフレットを送ってくれたんです。」 「そっかぁ。」 「シ…オリさんは、なんで?」 「え、私?…私は自分を変えたくて…。」 「…」 「ま、まぁあとは、ハル兄に対抗するためかな。」 「ハルニィ?」 シオリは頬を掻いて苦笑いを浮かべる。 エリーゼは疑問符を浮かべて首をかしげていた。 「入学式で馬鹿なこと言った人いたでしょ?…あれが、私の兄ちゃんなの。」 「入学式…」 「ほ、ほらっ。生徒会長で、ボサボサの赤い髪で…」 「それって…」 エリーゼは、視線を窓の外、校庭に向けた。 そして、ある場所を指差して… 「あの人ですか?」 「え?」 シオリはエリーゼが指さした先を見た。
/1033ページ

最初のコメントを投稿しよう!