第一話「開戦」

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混沌とした底無し沼に延々と浸かっている様な浅い眠りの中で俺は夢を見た。 内容は特に変わった事もなく普通に学校に通い、普通にみんなとふざけ合ったりして、普通に卒業していく夢だ。 だが、浅い眠りから目を覚ました時、涙が止まらなかった。 俺はもうこの時に、"暫く平凡な生活は送れない"と分かっていたのかもしれない。 ただ、認めたくなかった。 この平和な日本という俺達の温室が壊れかけているということを、認めたくはなかった。 瞳から溢れ出す涙の意味も分からずに頬を伝う水滴を拭い、寝起き独特の気怠さを身体に感じながらベッドから降りた俺は、ふともう暗くなった窓の外に視線を移す。 普段なら、美しい夜空に星や月が儚げに輝いている景色が見えるのだが、この時は異様だった。 見たこともない数の日本軍が保有する軍用機が夜空を覆い尽くしている。 空にはちらほらと星の光が見える為、きっと晴れてはいるのだろう。 だがその異様な光景に、その時の空は、俺にまるでどんよりとした曇天の憂鬱さに似た雰囲気を感じさせた。 あのジェットエンジンの轟音を聞いていると何だか世界に終わりが訪れた様で気分が悪い。 俺は最近値上げされた電気代の節約の為に開けっ放しにしていた窓を閉めて、とりあえずリビングに行く事にした。 リビングには誰もいない、母親はまだ帰っていない様だ。 テレビの電源をつけて画面右側に表示されている時計を見ると、もう7時をまわっている。 「…飯食うかな」 ただぼーっとしていても何んにもならない上に腹も減ってきた。 独り言を呟いて冷蔵庫の上の段ボールに入っているインスタントラーメンの買い置きを手にとる。 幸い俺の好きな"本格濃厚豚骨麺"はあったみたいだ。 少しテンションが上がった俺は、早速インスタントラーメンを包装しているビニールを破いてゴミ箱に捨て、電気ポットのボタンを押して容器に熱湯を注ぐ。 後は3分間待つだけだ。
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