第一話「開戦」

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家の鍵を閉めて俺は葉月と一緒に自宅を出た。 夏の朝の涼しい風、小気味よい油蝉の鳴き声、新鮮な空気、それぞれ全てが心地好い程に俺の五感を刺激する。 また今日も平凡で幸せな一日が始まる。 「お熱いねぇ、朝も葉月ちゃんと仲良く登校かい?」 しばらく葉月と談笑しながらいつもの道を歩いていると後ろから不意に茶化す様な言葉が聞こえてきた。 振り返るとそこには制服を着崩した茶髪直毛の男が立っていた。 こいつは矢野裕真。 中学から高校に至る今までお互い親友として認め合っている信頼できる男だ。 容姿は…少なくとも俺よりは端正な顔立ちをしている。 俗に言うイケメンというヤツか。 「おはよう裕真、それと俺と葉月は恋人じゃないって前から言ってんだろ」 毎日の日課の様な裕真の茶化しに溜め息を吐きながら答える。 だがこいつは本当に俺と葉月が恋人だと思っている様だ。 まあ、そういう関係になりたいのは山々なのは否定できない。 「お前も素直になんねぇなぁ」 俺の言葉を聞いた裕真が呆れたような様子で俺に言葉をかける。 呆れたいのは俺の方なんだが、その辺をこいつは理解していない様だ。 暫く三人で冗談を言い合ったりして談笑していればいつの間にかもう学校についてしまった。 楽しい時間というのは短く感じるものだ。 俺と裕真は二年生で葉月は一年生、つまり教室が違う。 昇降口で俺と裕真は葉月に一時の別れを告げる。 「りゅーくんと裕真くん、また帰りに此処で待ってるから一緒に帰ろうねっ?」 葉月はにこりと優しく愛らしい微笑みを浮かべて少し名残惜しそうに俺達と違う教室へ歩いて行った。 俺達も二年生の教室へ向かう、俺と裕真は同じD組だから一部の選択授業以外離れる事はない。
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