2人が本棚に入れています
本棚に追加
2016年6月6日 6:06
バチカン市国、サン・ピエトロ大聖堂前
「出張じゃなかったの、あなた!?」
まだ日が落ちていない赤い夕焼けをバックに大聖堂が輝きを増していた頃…
一組の男女の前に一人の女が立ち塞がっていた。
「一週間もイタリア出張なんておかしいと思ったのよ!」
女は男のスーツの袖をつかみ、激しく喚き散らしていた。
回りを通りすぎる人は、まばらだったが横目でチラリと一部始終を眺めていた。
「ちょっと、冴子。恥ずかしいだろ、こんなところで騒いじゃ…」
男は、必死に女を宥める。
「恥ずかしいのはどっちよ!こんな若い娘と異国の地でイチャイチャして!!
お父様とお母様に言いつけてやるわ!
離婚よ!離婚!
あなたにびた一文もやらないから、覚悟しなさいよ!」
男は、真っ青になって女の御機嫌を取ろうと必死だ。
サン・ピエトロ大聖堂のクーポラ屋上にはその光景を眺める一人の女がいた。
屋上は閉館時間が近い為か女一人しかおらず、女は手摺に腰掛け楽しそうに笑っていた。
「あーあ、ハデにやってるわねー」
太陽が分厚い雲に覆われた一瞬の暗闇が終わると、女の横に黒い影が立っていた。
「あれは私の獲物よ。手を出さないで」
女は黒い影に話しかけた。
.
最初のコメントを投稿しよう!