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声がしたと同時に、女の手からナイフが地面に落ちた。
そこには真っ直ぐな瞳を携えた少年が女の手をしっかり握りしめていた。
「いけません…
一時の感情でこんなことをしては。
貴女も傷ついてしまいますよ」
ゆっくりと諭すように、両手でそっと女の手を包んだ。
冷たい雨の中の彼の温かさに触れた彼女は、はっと我にかえり涙を流し始めた。
「私………なん…て…ことを…」
その場に崩れ落ちる彼女と、放心状態の男と浮気相手。
「なっ…!」
イリスは思わず声をあげた。
彼女の思惑通りに成らなかったのは初めてだった。
魂を食べ損ねた悔しさで、拳が震えた。
瞳を真っ赤に燃やしながら、少年を睨む。
『狩り』に失敗したことなんかなかった。
イリスは少しの間何が起こったか、理解できなかった。
半ばイリスが方針状態のうちに、その三人はその場から立ち去り雨の音だけが虚しく響いていた。
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