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革靴をいつもより丁寧に脱いで、狭い玄関間に空きスペースを作る。キッチンとバスルームに挟まれた廊下に健吾は飛び移る。
普段なら帰宅してすぐに一日を共に過ごした靴下を脱ぎ洗濯機に投げ込む。しかし、彼女の前ではできない。健吾は足の臭いを気にして、彼女から離れようとした。
彼女が玄関に入り、ガチャンとドアが閉まった。新しくはない玄関戸は、支えがないと、とにかく勢いよく閉まる作りになっていた。大きな音に健吾は振り返る。
「周りに響くから気を付けてって言っ……」
健吾の身体が一瞬のうちに固まる。視界が捉えたモノを脳が理解するより先に、身体が理解してしまった。
彼女は顔をうつ向けたまま、玄関に立っていた。恋人気分になっていた健吾は腰を抜かした。だが身体がまだ固まっていて、後ろに尻餅もつけない。
「ちょっ、ちょ、えぇ!?」
驚きに口が動き、健吾はやっと顔を上げた彼女を見ることができた。彼女は無表情で健吾を見る。
その手には、包丁が握られていた。
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