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主導権は部屋の主には無かった。 「奈々の居場所知らない?」 「知らない……というか、その前に土足だと困るんですけど」 引いた顔で少女の足元を見る。健吾の視線を追って少女は自分の足元をみた。 「あ、ついうっかり。ごめん。許して」 玄関に行かず、その場で靴を脱ぎ、手で靴裏を合わせて持つ。久美とは似つかない大雑把な性格。だが姿かたちは久美と遜色ない。双子の片割れか、そっくりさん、もしくはクローン。この3択に絞られる。 「で、奈々の居場所は?」 「さっきから、奈々奈々言ってますけど、誰のことですか?」 「なに言ってんの。あなたの彼女の奈々よ。水嶋奈々。私は双子の姉の久美……からかってるの? 知ってるくせに」 彼女の言っていることは、あべこべだった。健吾にはまず第一に恋人は居ない。第二に目の前にいる久美じゃない奴が久美と名乗っている。 疑いの眼差しを向けながら、彼女が包丁を捨てたゴミ箱の場所を意識した。
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