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健吾は半分も飲まれていない500mlのペットボトルジュースを彼女に差し出した。しかし彼女は受け取ろうとせず、眉を下げて睨んだ。
「なによ? これ、誰の?」
「久美ちゃんの飲みかけだけど……」
「だから久美は私だって! なんでもいいから、清潔なもの出して」
呆れた表情の久美のご機嫌を伺う。異性コミュニケーション能力の低下と殺されかけた経緯が、健吾の奴隷本能を開化させつつあった。
健吾自信も気付いている。俺は何をやってるんだと思いながら、洗い場に干していたコップにお茶を注ぐ。
「どうぞ」と彼女の目の前に置き、みじかい歩幅でテーブルの反対側に座った。
健吾は落ち着けずに、キョロキョロ視線を動かす。チラッと久美を見ると、渡したお茶を小さな口で上品に飲んでいる。
「えー。あなたが久美さんで、僕が知ってた久美ちゃんが奈々さん。ってことですか?」
久美は20歳の女の子だった。つまり本物の久美も20歳。健吾は年下に減り下って話していた。
「うん。奈々と最後に会ったのいつ?」
「最後に会ったのは先週です。あと、彼氏じゃないです」
「はぁ? 奈々の日記にあんたのこと書いてあった。彼氏じゃないなら何よ」
困るというより考えさせられる質問だった。彼氏になりたがっている者とは言えない。しかし恋人以上の行為はしている。
健吾は、奈々とこの部屋で過ごした時間を思い返した。双子の久美が目の前にいる。容姿はほぼ一緒。服に隠された細部も似ているかもなれない。
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