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健吾は女子特有の身体のラインを視線でなぞる。久美と奈々を重ねて想像した。
生唾を飲み込むと、なにかを感知したのか、久美がギラリと目を光らせて睨む。
「なに?」
「いやっ、何でも」
忘れ去られたコンビニ弁当が袋の中から健吾を見つめる。如何わしいことを考えていた健吾はわかりやすく動揺した。スーツのポケットから不器用にタバコを取り出して、ケースから一本を取り出した。
「ちょっと! タバコとか辞めてよ」
「僕の家だし……久美ちゃんも気にしてなかったし。あ、奈々ちゃんか」
タバコをくわえて、ライターの火を付ける。タバコに火を近付けようとした瞬間、立ち上がった久美にくわえたタバコを奪われた。
「ダメ、禁煙。あたし、しばらくここに居座るから」
「はぁ!?」
久美はタバコの箱も奪い、ゴミ箱に捨てた。
「ちょっと待って、居座るって住むってこと!? ここに!?」
「悪い? ここが一番怪しいの。奈々も来そうだし」
「無理! 殺そうとしたくせに、もぅ何だよ!!」
今さら肝心なことを含めて怒る健吾。ガツンと男らしく大きく出て、流れを掴むチャンスだった。
強気な姿勢で真っ向に久美に挑もうと、健吾も立ち上がった。受けて立つ様子の久美も堂々と構えている。
「あっ、表に荷物忘れてた」
怒りに燃えている健吾を無視し、久美は反転し離れて言った。立ち上がったまま健吾は停止する。
「勿体なーい。お弁当落ちたままになってるよ!」
廊下から久美の拍子抜けた声が届く。
「めちゃくちゃだ……めちゃくちゃ」
デリバリーヘルスを初めて四週目。健吾の元にやって来たのは、天使の格好をした悪魔だった。
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