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同じ頃、都内のアパートの一室で地獄絵図が発見されていた。 遅れて到着した刑事が黄色のテープを潜って、部屋に向かっていた。 佐々木コウジ、29歳。 真面目で家族のために一生懸命働く刑事。待避させられる住人を避けて、現場に向かって走る。 二十代最後の夜に事件が起こったことに因果を感じ、佐々木のデカ魂は燃えていた。 現場に着いた佐々木は殿番の警察官に警察手帳を見せる。「ご苦労様です」と道を開けられ、佐々木はすれ違う警察関係者たちが全員マスクを着けていることに肝を冷やした。 手袋を左右の手に付けながら、部屋の前に立っていた上司の元に歩み寄る。 「ノブさん、早いっすね」 「おう……」 佐々木は上司の顔色の悪さを読み取った。部屋の中の悲惨な状態を想像してしまう。 「ついに引いちまったな。ヤバい山だ」 ベテラン中圏刑事の清水亘輝。刑事生活29年の彼は言葉通り引いてしまった。 冥利に尽きると言えば、刑事として本望だが、吹き出る汗は事件に対して腰が引けてる証だった。 気合いを貯めた佐々木が中に入ろうとする。 「佐々木、吐くならそこにしろ」 「はい?」 清水の言葉が指した場所には、ビニール袋が広げて置かれていた。
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