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健吾の部屋は二階建てアパートの二階の端。
自転車が無理矢理に詰め込まれた駐輪場を抜けてアパートの入り口に着いた健吾は、今朝は空だった204号室の郵便受けを見た。
8つある郵便受けの投稿口。チラシがはみ出ているのは自分の部屋だけ。健吾は「またかよ」とダルそうに口を開き、ふたを開けて中のものを取り出した。風俗のチラシや勧誘のダイレクトメールばかり。
高さと場所が丁度良いからではない。ここの住人は不要なチラシ類を健吾の部屋の郵便受けに突っ込んでいく。恨みを買った覚えはないが、嫌われている証拠だ。
誰かの郵便受けに移し、やり合い合戦に膨らませることもできるが、姑息な嘘が列挙しているチラシは、広告代理店に勤める健吾にとっては面白い勉強素材だった。
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