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階段を一段一段登る度にビニール袋が音を鳴らす。階段を登り、共同廊下に差し掛かる。健吾は「あっ」と小さく驚いた。 廊下の電灯の真下に、女の子が立っていた。女は健吾の顔を見て、不適な笑みを浮かべる。 瞳は笑っているが、鼻から下は無の表情。整いすぎた顔と北国生まれかと尋ねてしまいそうなほどに白い肌。 年期が入った建物には似合わない若者の服装。生脚をさらすデニム生地のショートパンツが、若気の無邪気さを表していた。 健吾の身体は彼女に向かって引き寄せられる。 「どうしたの、今日はおねがいしてないのに」 駆け寄る健吾から顔を反らし、女の子は背中を向けた。フランクに挨拶しようと挙げた手を、健吾は虚しくおろした。
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