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そこは掛け値なしの戦場だった。
並列の並ぶ軍勢は敵味方を明確にし、各々が時折、正面の敵軍を殺意と威圧の視線を交わし合いながらも大半の視線は並列の中央に位置する2人の人物に注がれていた。
その2人の人物こそが、背に自分の軍勢を――そして、正面には打ち倒すべき敵の総大将を見据えていた。
そう、これから始まるのは軍対軍の戦闘ではなく大将対大将の一騎打ち、つまりは決闘である。
互いの軍が、自分が総大将と認めた者へと信頼と期待で見守る中で、彼は――『草薙 勇(くさなぎゆう)』は「どうしてこうなったんだろう?」と、内なる声に耳を傾けていた。
目の前にいる彼は敵といえど、懐旧の念を抱くほど再会に焦がれた相手なのに――どうして俺は愛剣を手に彼と向き合っているのだろう? 答えは解っている……仲間に厭と言うほど聞かされたから……。
どうして彼と俺が戦わなくてはいけないんだ!?
――彼が私たちの敵だからです。
どうして!? 俺は彼と再会するためにここまで来たのに!?
――知っております。然れど、あなたは皆に説いた世界征服を反故にする気ですか? 夢浮橋と笑われながらも、それを為してみせると断固たる響きを持った言葉に共感し、力を貸し、命までも投げ打ってあなたに賭けた同胞の気持ちを無碍にするおつもりですか?
……どうして……こうなったんだろう?
――………………。
未だにどうするべきなのか分からない俺は五里霧中(ごりむちゅう)の中を案山子(かかし)みたいにただ立っているだけな気がする。
命懸けの事柄に迷いは不要。迷いは己のみならず、他の者も危険に晒しますぞ! リーダーたる者、いつ何時でも毅然と立ち振る舞い為され。
いつか言われたこの身を案じての説教が、ふと頭を過ぎる。
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