カタクリ

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彼が目を閉じたのを確認すると、数回クルクルと回ってカリンと位置を変える。 「「もういいよ。はい、どっちがシレネでどっちがカリンでしょう!」」 顎に手を当てて悩む彼に、僕たちは笑顔を向けながら返答を待つ。 十分に悩んだ後、彼は僕を指差して、 「君がカリンくん!」 なんとも残念な答えをくれた。 あんなに悩んだのに。 僕たちは当てられることを望んでいる訳じゃない。 当てたとしても、それは会ったばっか。 ただ適当に言ったのが、合ってただけ。 外れても、それは普通なんだから。 「ざーんねん!僕がカリン」 「ざーんねん!僕がシレネ」 「「また挑戦してみてよね」」 決まり文句のような感じだった。 たまにすれ違った時に、もう一度やる人は居たけれど。 彼みたいに態々来て「もう一度やろう」って言った人は、初めて。 彼はわざとやってるんじゃないか、と思うぐらい当てられなかったけど。 毎日のように来ては外して帰っていく彼を見るのが、なんだか楽しみになっていた。 「また外れだよ」 「わざとなの?」 「「てか、センパイの名前教えてよ」」 何回目かの時、聞き忘れてしまった名前。 彼は頬を照れたように掻きながら笑う。 「言ってなかったね。俺はツツジ」 「「じゃあ…つーくんね」」 彼、つーくんはそのあだ名を気に入ったようで、満面の笑みで頷かれる。 それからも来るつーくんは、いつ僕たちのことを当てるのかと1日の楽しみの1つになった。 つーくんは、十何回目の時。 「君がシレネくん!」 初めて僕たちのことを当てた。
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