156人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
とはいえ、そんなご利益3%くらいのパワースポットさんでも、せっかく小一時間もかけてここまできたんだ。
このまま何もせずに引き返すなんて選択は無しだろう。
オレはせっかくだからと山の新鮮な空気を目一杯に肺の中に取り込みながら、その小さな滝、及び直径3mくらいの滝壺の水たまり(池?)にとぼとぼと近寄る。
さすが水 “ だけ ”(←強調)は綺麗なことはあり、水たまりの袂(たもと)まで着けば、深度1mくらいの茶色の水底を容易に見通すことができた。
魚は住んでいないようだったが、代わりに1円玉やら5円玉やら10円玉が十数枚、底のほうに沈んでいるのが見える。
…どうやら、まるでご利益がない…ってわけでもなさそうだ…。
胸の中でつぶやき、アイスの当たり棒が出るのを祈るような気持ちで、制服の上着のポケットに手を突っ込む。
そして一枚のピカピカな5円玉をそこから取り出す。
…え?
なんで “ 制服 ” かって?
はははイヤだなあ。
数時間前まで授業受けてたんだから当たり前じゃないか?
そして雇用制度の説明聞いてたら、急に将来が不安になって学校を途中キャンセルして抜け出してきたのだから当たり前じゃないか?
はははは。
…とまあ、そんな具合です。
あ。
よい子のみんなは絶対に真似しちゃダメだよ?
本当に将来路頭に迷っちゃうからね?
にこにこ。
そんな訳でオレは、5円玉を持った右手を大きく振りかぶり、得意の投球フォームで全力でそれを池の中に投げ込んだ。
ビュッ!
ジャボンッ!
小気味いい音と共に、水中でもしばらく直進する5円玉。
それはやがて勢いを失い、水底にフワリと着地した。
…今のは投球速度70kmは出てたな…。
…これならご利益も少しは上乗せされそうだな…。
そんな淡い期待を抱きながら、流れ落ちる滝と、キラキラと輝く水面に向かって両手を合わせる。
そして目を閉じる。
オレは心からの願いを言った。
「…どうか一生働かないで済みますように…」
…え?
『このロクデナシが!』…?
うん、ありがとう!
念のために聞いとくけど、それって褒め言葉だよね?
最初のコメントを投稿しよう!