§ 序章 §

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  「まーまー。 落ち着きなよ良雄くん」 「…良いのかよ翔太ぁ? こんな口きくって事はよぉ…舐められてんだぜぇ? 完全にぃ…。 …この俺達がっ、こんなクソ転校生によぉ…!」 なだめる翔太に対し、こちらを見据えたまま、怒りで声を震わせる良雄。 まるで喧嘩が起こる寸前のような台詞と声に、胸の鼓動が加速していくのを感じる。 <良雄好感度、-1(※)> しかし翔太は、相変わらずの落ち着いた声で返した。 「それも含めてさー、ここはオレに任せてよ♪」 ニヤニヤとした嫌な表情を一旦解き、一度だけニコッと良雄に振り返る翔太。 そして再度、感情の読み取れないにやけ顔をつくり、こちらに向ける。 「…ねえ、七夜くん? キミは『自分の顔が良いなんて全然思ってない』…って、さっき言ってたよね? じゃーあー、わかりやすくしちゃおっか♪」 …わかりやすく…? 意味がわからずとっさに言葉を返せない俺に、翔太は続ける。 「誰が見ても誤解のないようにー、そのきれーな顔をさー♪ ……ぶっ壊してやるよ、醜い形に……。 …今から。」 ゾクリ…と、背筋に冷たいものが走った。 翔太が口にした後半の二言は、まるで凍りつくような冷たさを持っていた。 現に今、さっきまであった翔太のにやけ顔なんて、もうどこにもない。 あるのは、冷酷に俺を見据える、三日月が開いたような目つきだけだった。 <翔太好感度、-1> 良雄の前に一歩足を進め、中央通路へと歩く翔太。 間もなくして、後部座席中央に座る良雄の前に立つ。 …オレンジ色の弱い照明に照らされた翔太が、ゆっくりとこちらに向き直る。 バスの振動なのか、それとも足の震えなのか、自分の体が微かに揺れたような気がした。 /(※) 好感度の説明は、本編開始直前にあります。/
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