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そして、私の世界が終わる瞬間を待った。
………なのに。
「このダボがあっ!!」
「ハガッ!?」
怒声と共に一陣の風が…吹き荒れたのだ。
「……?」
恐る恐る固く閉じた目を開けると、またもや見覚えのある後ろ姿が。
5m程先の電信柱の下には、ナイフの男が白眼を剥いて転がっている。
何がどうなったのか状況がてんでわからず、
「…どう、して…あの…」
弾け飛んだらしいナイフを拾い上げる背中に、声をかけた。
「…ハァ…ハァ……大、丈夫…だった?」
振り向いたその人は…
息を切らせ心配そうな声色だけど整った綺麗な顔が、酷く怒っていた。
「…部長…」
何故この人がここにいるのだろう?
今頃は工藤さんとデートの筈。
突然訪れた私の窮地を、遠く離れた場所から救いに来れる訳が無い。
「…ホントに君は…危なっかしくて目が離せないな。」
そんな疑念を払拭させるように、部長が私を引き寄せ強く抱き締めた。
「…間に合って、良かった…」
心底安堵した声が耳を擽る。
それから仄かな香水と混ざった、汗の匂いがして。
密着した部長の身体は熱を帯び、ドクドクと心臓が激しく脈打っているのが、互いのスーツ越しからでも伝わって来た。
そこへ、
「あ~ゴホンゴホン。…ハイそこ、感動のシーンでチャチャ入れて申し訳ないけど、怪我人いるの忘れちゃダメだよ~?んでナイフ握ったままの抱擁も危ないからやめようね~」
柴田君を支えた田中さんまで現れた。
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