誘惑と疑惑

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解放、してくれるの?…とてもそんな雰囲気には見えなかったのに。 思い掛けない労わりが緊張の糸を緩め、肩の力が抜けてゆく。 それが触れている箇所から伝わったのか、 「安心した?…分かり易過ぎ。」 部長は苦笑いを浮かべる。 「だって…」 今迄散々、人の都合も感情も自分のいいように振り回していたのは、紛れもなくあなたよ? 疑われないと思う図太い神経に呆れながら、そこは言葉を飲み込んだ。 「ちゃんと起こしてあげるから、着くまで暫く休めば?」 そう言ってもたれ掛からせるように引き寄せ、傾いた頭部へ自分の頬を乗せた部長。 …あ、これ… でもその行為が裏目に出たと気付いて無いあたり、本人も全く気付いていないらしい。 襟元から香る柔らかな匂いが、別の香水で侵されている事に。 いや…直接肌に染み込んでいる、と言った方が正解みたいだ。 それはつまり、私を助ける前に接触した相手の残り香。 勿論、覚えがあった。 「…はい、ではお言葉に甘えて…」 もう、考えるのも馬鹿馬鹿しくなった。 部長がどうしてタイミング良く、私のピンチに間に合ったのか…なんて。 知る必要も無く出さなくて良い答えなら、悩むだけ時間の無駄だもの。 自己完結すれば、徐々に重くなる瞼。 油断を許さない人の肩ではあるけれど、そろそろ本当に限界も超えたみたいで。 うちに着いたら、ただ泥のようにぐっすりと朝まで眠り続けたい。 そう思いながら… 睡魔にあがらわず、意識を手離した。
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