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『ハァ…ハァ…』
誰かが、苦しそうに息を荒げる。
そこは白一色に統一された個室。
慌ただしい足音。
煩く鳴り響く計器類。
ベッドに横たわり、胸を激しく上下させる患者。
ああ…あれは、お母さんだ。
白い形をしたモヤが忙しなく動く様を、ただぼんやりと遠くから眺めるだけの私は、悲しみよりも安堵感に包まれていて。
…良かったわね。
やっと、楽になれるんだから。
もう、ここらが潮時でしょ?
だって…貴女も私も、とうに限界を超えていたんだもの。
最期の瞬間が、足音を忍ばせてやって来る。
酸素マスクに覆われていた口が小刻みに震え、
『…ご…めん…ね…』
力無く、そう言った気がした。
私はそれを、酷く冷めた目で見つめながら緩やかに微笑んだ。
……バイバイ、お母さん。
『ピーーーーーーーーー』
部屋中に一際甲高い音が響き渡った瞬間。
視えない拘束具がひとつ外れ…
入れ替わりの新たな鎖が、私を雁字搦めに縛り付ける。
背後に嫌な気配がして振り向く。
するとそこには…
計算高い笑みを浮かべて、良く知るあの人が立っていた。
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