9826人が本棚に入れています
本棚に追加
不意に伸びて来た手は頬に触れ、ゆっくりと重なるだけのキスを落とす。
伏せられた長い睫毛。
その瞼が開いた時、瞳の中にもう一人の私がいて…哀しく揺らめいていた。
「我慢ばかりして…甘え方も忘れちゃった?」
「………」
「…君は何に怯えてるの?そんなに俺が……自分以外の人間に、本音を見せるのが怖い?」
「怯えて、なんかないわ…」
ピリピリと伝わる威圧感。
上に立つ人種には、特別なオーラがあるというけど…
纏った空気が、まるで肌を刺すようだ。
どうやって、この場を凌ごう。
そんな事ばかり考えていると、
「…泣きそうな顔して、良く言うよ。」
涙なんか出ていないのに。
そう言って、部長は指で目尻を撫でる。
「…ねえ、ひとついい事教えてあげようか?」
耳に息が掛かる程の距離。
頬をすり寄せるようにして囁く。
「前にも言ったけど、俺達の出逢いは、『あの夜』が初めてじゃない。…何処だと思う?」
いつだったか…
確かに、聞き覚えがあった。
今の今まで、記憶の隅に押しやられていたけれど…
最初のコメントを投稿しよう!