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『あの夜』
久し振りに…ただ純粋に人肌が恋しくなった。
もしあれが偶然の出逢いでなければ…
部長は、私を見知った上で声を掛けた事になる。
「何処で、って言われても…」
けれど私の方は、欠片も思い出せなくて。
だってもし本当に立ち直る以前少しでも面識があったのなら、ほろ酔い程度で忘れてしまって一夜でも抱かれるなんて、絶対に有り得ない話しだから。
しかも、財閥の御曹司でこれだけのイケメンだ。
例え本人に興味が持てなかったにしても、そう簡単に忘れ去ってしまうものだろうか?
それに…あの頃の私は財のある男には特に鼻が利く最低の雌犬だったし、こんなオイシイ男が身近にいたなら飛びつかない筈が無い。
何処までも遡った過去。
「…ごめんなさい、わからないわ…」
結局、目の前にある微笑みには辿り着けなかった。
「そう……じゃあ、特別にヒントをあげようか。」
「?」
「『第一総合病院』」
「ーーっ!」
嫌という程聞き覚えのあるその名称に、突然世界は闇に包まれる。
ああ…やっぱり、この人は。
私の醜い過去を知り、罰を与えに現れた悪魔なのだと理解し…絶望した。
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