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体勢を腕枕に変え、私を優しく抱き締める。
「ずっと我慢してた分、加減が効かなくて…辛かったよね?もしかして、どこか痛かったりする?」
ポン、ポン…と。
背中に添えられた手が、あやすように一定のリズムを刻む。
いつもなら、どんな時も平気だと強がってみせるのに。
「…少し、怖かっただけ…」
精も根も尽き果てたせいか朦朧として…つい本音を漏らしていた。
「そっか…ホントにゴメン。余裕無くて…」
しょげたような声色とは裏腹に、包み込む腕の力が強くなる。
「…今度は優しく出来るように努力するよ。だから…嫌いにならないでね、俺の事。」
「………」
「ずっと、君が好きだった。…相応しい男になる為に、金も力も手に入れて…漸く手が届いたんだ。もう、離したくない。」
「………」
切実な願いに嘘でも『うん』と言えなかった。
もしかするとこの人は、本気で私を想ってくれているのかも知れない…と信じかけていたけれど。
どうしても、自分の中に愛される価値を見出せ無くて、戸惑う事しか出来ない。
「ねえ、何か言ってよ。………あれ?寝てる?」
「………」
情けなくも狸寝入りして、この現状からも部長の想いからも逃げて誤魔化した。
結局私は、臆病なだけだ。
自ら変わろうとする勇気も無く、傷付くのが嫌で…
アラサー女が思春期女学生みたいな迷宮にハマるとか、見掛け倒しの精神年齢の低さに今更ながら呆れる。
あーもう…気持ち悪いったらないわね…
心地良い温もりを肌で感じていても、心が満たされる事はなかった。
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