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全ての金持ちがそうだとは限らないけど…
このボンボンは金にモノを言わせ、何もかも思い通りに行かないと癇癪を起こす、最も厄介なタイプだ。
改めてこんな男に見初められた、とことん運の悪い人生に幻滅する。
信じられない奇行に、こめかみの血管がブチ切れそうになるのを堪えていると、
「いつって…」
目を明後日の方向に泳がせ、指で頬を掻く部長は、
「一緒に食事に行った時?」
まるで他人事のように、何故か疑問形で返して来た。
「食事って…だからいつだって聞いてるの!」
今迄数え切れない程付き合わされた食事。
それだけの情報で、答えに辿り着けたら苦労は無い。
「えっと…和食を食べに行ったの覚えてる?畳みの個室で…」
「畳みの個室って…一体何軒行ったと思ってるの?寿司?天麩羅屋さん?鰻屋さん?お蕎麦屋さん?割烹料亭?全部お座敷だったわよね?」
しかもVIPしか通さないらしい奥座敷で。
「あ、そうか。えーと…料亭の時かな?電話で席を外した時、ついでにヒールの窪みにちょちょいと。」
「ヒール!?え…ええっ!?どうやって!?で、電話って、……あっ!」
今度は確かに思い当たる節があった。
私が見事な鯛や平目の姿造りに魅了され舌鼓を打っていた時に、部長のスマホが鳴った途端珍しく場所を変えていたっけ。
食事中の着信は何時もの事ながら、わざわざ視界から消えたのはあの料亭での一回に限定される。
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