不純と矛盾

22/40
前へ
/326ページ
次へ
全ての金持ちがそうだとは限らないけど… このボンボンは金にモノを言わせ、何もかも思い通りに行かないと癇癪を起こす、最も厄介なタイプだ。 改めてこんな男に見初められた、とことん運の悪い人生に幻滅する。 信じられない奇行に、こめかみの血管がブチ切れそうになるのを堪えていると、 「いつって…」 目を明後日の方向に泳がせ、指で頬を掻く部長は、 「一緒に食事に行った時?」 まるで他人事のように、何故か疑問形で返して来た。 「食事って…だからいつだって聞いてるの!」 今迄数え切れない程付き合わされた食事。 それだけの情報で、答えに辿り着けたら苦労は無い。 「えっと…和食を食べに行ったの覚えてる?畳みの個室で…」 「畳みの個室って…一体何軒行ったと思ってるの?寿司?天麩羅屋さん?鰻屋さん?お蕎麦屋さん?割烹料亭?全部お座敷だったわよね?」 しかもVIPしか通さないらしい奥座敷で。 「あ、そうか。えーと…料亭の時かな?電話で席を外した時、ついでにヒールの窪みにちょちょいと。」 「ヒール!?え…ええっ!?どうやって!?で、電話って、……あっ!」 今度は確かに思い当たる節があった。 私が見事な鯛や平目の姿造りに魅了され舌鼓を打っていた時に、部長のスマホが鳴った途端珍しく場所を変えていたっけ。 食事中の着信は何時もの事ながら、わざわざ視界から消えたのはあの料亭での一回に限定される。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9827人が本棚に入れています
本棚に追加