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…と言う事は、だ。
「ーーー確かめて来るから、そこで待ってなさい!」
「え?今見るの?」
今現在も玄関に有る筈のヒールの裏には、盗聴器が張り付いたままなのだろうと思い、急いで踵を返した。
そして、乱暴に開け放ったドアの向こう側は…
まるで高級ホテルのスウィートルーム張りの煌びやかな空間が、目の前に広がっていた。
「……これだからボンボンは…」
「ん?何か言った?」
「別に。…あなたここに、一人暮らしなのよね?」
「そうだけど?」
………チッ。
質問の意味がわからない、といった風な口調に心の中で軽く舌打ちする。
許されるなら殴りたい…いやいっそジャングルの奥地に一人、放り出してやりたい。
やはり世の中は富を掴んだ者が勝者で、不公平な世界なのだと現実を見せ付けられた気がして嫌気が差す。
「どうしたの?玄関はこっちだよ?」
「案内は結構です。」
悪びれもせず先を行こうとする部長をビシリと制し、ワックスでピカピカ光る無駄にだだ広い廊下を進んだ。
お高そうな絵画だの彫刻だのはスルーして、またも広いスペースにポツンと数足置かれた男物の靴の中に浮いた存在…自分のヒールを見つけ、屈むなり鷲掴みにして裏を凝視した。
「これね…」
確かに張り付いていたゴミのような塊は袖口に使われるボタン程に小さく、ご丁寧に接着剤の類いが使われているのか、摘まんで引っ張っても離れる様子は全く無い。
「…ハァ…」
こんな高性能な代物を誰から手に入れたかなんて、尋ねる気も失せた。
どうせ顔見知りとやらの警察関係者とか裏社会にも伝があるとか、金持ちに有りがちなそういったところだろうし。
「あーもう最低…お気に入りの仕事用だったのに…」
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