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「どうしたの?」
「いや何か…複雑なんスよね。礼を言われんのって。カッコ悪いっつーか…俺、あんま役に立ってないスから。」
これが謙遜で無いのは、重々承知している。
助けに来た筈が最終的には部長の独壇場と化し、自分も助けられた事に大いなる不満を抱いているらしいのだけど。
「何言ってるの。あなたが先に来てくれたからこそでしょう。」
たかが会社の繋がりだけで、躊躇無く飛び込んで来てくれた彼。
意地汚く『褒美』を迫った部長に比べれば、こちらの方がまだ好感が持てるというものだ。
「本気で感謝してるんだから。…素直に受け止めてくれないかしら?」
「けど…逆に助けられたのは、俺の方スからね。部長にも、主任にも…」
「私?私は何も」
「庇ってくれたじゃないスか、あの時。」
「あ、ああ…それは…」
条件反射みたいなものよ。
他人に興味が無くても、助けてくれた知人が殺されそうになっていれば、否が応でも身体は動く。
きっと柴田君も私と同じだった筈。
「礼を言うのは俺の方っス。…ありがとう、ございました。」
「…やめてよ、怪我したのだって私のせいなのに…」
タガを外して浮かれた代償は、思い掛けない部下の負傷。
良心の呵責というヤツか、まだ少し胸がモヤモヤする。
「…昨日も言ったスけど、主任は被害者っスから。俺達は悪くないしこの程度で済んだんスよ?もう良いじゃないスか。」
「でも…」
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