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かと言って、どんな高級食材を使おうと所詮目分量でしか作れない大雑把な性格で、満足させる自信は無いのだけれど。
「プハッ、冗談っスよ。すんません、怒んないで下さい。楽しみにしてるっス。」
嬉しそうに笑う声が余計にプレッシャーを煽る。
「…それだけ元気なら心配は無さそうね。やっぱりリクエストは却下よ、コンビニ弁当でも買って行ってあげるわ。」
「ええーーっ!?そんくらいでヘソ曲げないで下さいよ!謝ってるじゃないスかぁ!」
「贅沢言わない、タダ飯にあり付けるだけ有難いと思いなさい。」
「…ちぇ~、卵焼き食いたかったのになぁ~…」
ションボリとした声にちょっとだけ絆されそうになりながらも、墓穴で上げてしまったハードルは、柴田君にとって案外低いものであった事に安堵した。
「じゃあ今から…二十分後には出るわ。住所を教えて?」
「…卵焼きと味噌汁…」
「教えなさい。」
「…イエッサー、ボス。」
『あなたのボスはピリピリした気を放ちながら、後ろでふて寝をしている人よ。』
と言うとどちらも面倒な反応を見せそうだから、やめておこう。
その後教えられた住所をメモに取り、二十分の限られた時間内にあれこれと必要最低限には身綺麗にして支度を整える。
部長が余計なちょっかいを出さず、ジッと様子を伺っているのを不気味に感じながら。
「そろそろ出るわね。」
だけど私が出掛ける寸前で、我慢の限界が来たらしく、
「…俺も行く。やっぱ二人っきりは危険だし。」
玄関へ向かおうとした後ろから、車の鍵を握り仏頂面でついて来た。
にーっこり笑って、
「絶対嫌。屈強な男共の板挟みなんて御免よ。」
身を翻し曰く付きのヒールに足を滑らせる。
「怪我人相手に取っ組み合いの喧嘩なんかする訳ないだろ、そこまで鬼畜じゃないよ。…大体元々は俺と出掛ける予定だったんだから、あいつにはついでに見舞いと弁当だけ渡してやればいいんじゃない?」
「異議あり、その予定はあなたが勝手に言っていただけで、決定事項ではありません。」
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