不純と矛盾

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お互いに嫌いあっているのは明白なのに、わざわざ連れ立つ必要性は無いし、正直…拒む理由は他にもあった。 ヒールを買い換えたいけど、その手の店はまだ営業を開始していないから、見舞い帰りにでも新調するとして。 今の私の最優先事項。 それは…戸塚さんへの連絡だ。 呼び出しの指定をキャンセルしたのは関係を持ってから初めての事。 だからこそ、翌朝に私の方から連絡を入れ直さなければいけない事態も初めての経験だった。 デートと称して一日中付き纏われては、無駄に時間が経つばかりで弁解する隙もないけれど、柴田君の家に向かうまでの間にならどうとでもなる。 「…じゃあ、柴田んとこまで送るから、その後時間くれない?近場で適当に時間潰してるし。」 …遂に呼び捨て… 「いやいや、あなたに送って貰うのはマズいから。」 「どうして?」 「柴田君だって、あなたにプライベートな事は知られたくはないんじゃないかしら?」 「なら近くまで…」 「しつこい。」 前を向いたまま突き放すように言うと、 「…普通はね、いくら上司と部下とは言えど、惚れた女を他の男の部屋で二人っきりにはさせたくないもんなんだよ。況してや君は俺の婚約者だ。周りに知れたらどう思われるのか…少しは自覚を持ったらどう?怪我をさせた負い目があるにしても、独身男性の家までのこのこ行って手料理を振る舞うとか……君の無神経さには本気で腹が立つ。…勝手にすれば?もしあいつが君に手を出すようなら、一生後悔するような社会的制裁を与えるまでだ。俺にはその力がある。どうしても行きたければ、そこのところを良く踏まえて行ってくるといい。」 冷たくそう言い放ち、足音が静かに離れていく。
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