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「…意外と早かったっスね。部長に送って貰ったんスか?」
白いレースのボヤけたカーテン越しに柴田君が見たのは、部長と同じ黒色ってだけのタクシーなのに勘違いしてブスくれ、
「部長は連れて来ないって言ったでしょう?さっきのは公共タクシーよ。」
「え?」
私がそう言うと、次の瞬間には嬉しそうな表情を浮かべる単純さ。
やっぱり柴田君には、何処か大型犬のイメージが付きまとい、なかなかに可愛い部下に思う。
それから視点が下へと降りているのに気付き、
「買って来たわよ、コンビニ弁当だけど。ついでに玉子もね。」
軽く持ち上げて見せると、
「やったぁ!立ち話も何ですしどうぞ上がって下さい、散らかってますけど。」
早口に中へ入るよう促された。
まだ作ってもいないのに玉子焼きひとつでそんなに喜ばれると、こちらの方が申し訳ない気分になって来る。
「そうさせて貰うわ。このままじゃご近所迷惑だし。」
「ここにはこんな事位で煩く言う奴なんていないスよ。ただでさえ壁も薄いんスから。鍵、開いてますんで勝手に入って来て下さいっス。」
下さいっス?
「ふふ…了解。」
不意打ちの変な日本語に噴き出したくなるのを堪え、すぐ脇にある五段程の短い階段を登った。
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