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そこここに茂る樹木や雑草。
手入れがなされていなくとも、緑豊かな土地は純粋に心が癒される。
この住宅には、マンション等に有りがちなエントランスや安全対策の重設備はない。
階段を上った先にまた住宅内の階段があり、段差の低いそこを数段上った。
「いらっしゃ…、」
上がり切る前に開かれたドア。
長身の柴田君がふわりと笑みを浮かべながら、頭を上部に擦るようにして現れた。
ロゴの入った白い半袖シャツに揺れるチェーンだけのネックレス。
ゆったりめのデニムパンツを履いていて…堅苦しいスーツ姿とは違う、年相応の好青年という印象だ。
ただ…袖口から覗く厚めに巻かれた包帯が、緩みかけた私の心を強張らせた。
「…それ…」
「ん?…ああ、大丈夫って言ったじゃないスか。」
「痛く、ないの?」
「全然平気っス。ちょっと引き攣った感じがするだけで。痛み止め、ちゃんと効いてるっスよ。」
私に気を使わせまいと、ニカッと笑う姿が痛々しい。
「そう…」
複雑な心境で曖昧な笑みを浮かべていたら、
「…ところで主任……何なんスか、それ?」
今度は訝し気にガッツリと足元を凝視された。
「ん?これ?…見たままよ?」
「…俺にはスリッパにしか見えないんスけど…」
「そうね、スリッパね。」
コンビニでついでに購入したのは、携帯用の折り畳みスリッパ。
私物をコンビニのゴミ箱へ投函したのは気が引けたけど…背に腹は変えられない。
「…そのスリッパでタクシー乗って来たんスか?」
「悪い?」
「いや、悪いとか悪くないとかの問題じゃ無くて…」
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