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受け取りの為に差し出そうとした手は、上向きで中途半端に止まりそこで固まる。
何故なら。
「いっそ、顔洗いますか!?」
そう言いつつ柴田君はそのまま、私の顔をゴシゴシと拭き始めたからだ。
今度は私が問いかけてやりたい。
女性の顔を無造作に磨き上げれば、どんな結果が待っているのかを。
「主任…?お、怒ってるんスか?」
「………」
ピクリとも反応が無くなり不安になった柴田君は、タオルを離すと同時に私の顔を覗き込む。
「あ。」
驚きで見開かれた目が、私の鋭い視線と合わさった。
「…あなた、馬鹿?」
「いや、わざとじゃっ…これもわざとじゃないっスよ!」
だとしたら、稀に見る天才的な天然ぶりだわね。
私の顔とタオルの表面を、交互に見ながらあたふたする様はまるで漫画のよう。
チラッとだけ見たタオルには薄っすらと、目元に使った色や口紅が濁り合っていた。
普段から厚化粧ではないけれど、今朝は通常の出勤時よりもかなり手抜きをしていたから、爆笑を誘うくっきり複写された芸術的な作品には仕上らなかったようだった。
「これがわざとだったら、あなた一生彼女なんか出来ないわよ?」
いや…もしかして、こういうドジっ子要素がご婦人方には堪らないのかも。
現に私だって、スッピンを晒されるというレッドゾーンを侵されても、本気で怒る気にはなれない訳だし。
「…ホント、スンマセン。けど…俺はそっちの方が好きっス。主任ってば、すげえ可愛いっスもん。」
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