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硬い胸板が頬に当たる。
布越しにドクドクと聴こえる、激しい心音。
「ちょ…ちょっと、柴田君?」
どうしてこうなったのだろうかと困惑しながら…過度な心配をしていた部長の顔が浮かぶ。
同時に、
「…俺、主任の事が好きです。入社した時から、ずっと…」
耳許で、切なげな声がした。
「本当は、主任に認めて貰えるような一人前の男になってから言うつもりでした。でも…急に出て来た男にいきなり掻っ攫われて焦ってるトコに…これですもんね。…もう、我慢の限界です。」
「………」
どう答えて良いのかわからなかった。
そんなに長い間想っていてくれた事とか、部長への敵対心が芽生えたのはこのせいなのか…とか。
ぐるぐるぐるぐる過去を振り返って考えて、私に対しての従順な態度や仕事に対しての直向きな姿勢は、全て恋愛感情絡みだったのかと思うと正直ショックを受けていたのも事実。
男女の垣根を越えて互いを尊重し合える稀有な存在…最良のビジネスパートナーだと信じて疑わなかったからだ。
部長の要らぬ詮索が的中し、打ち消した筈の疑惑が膨らむ。
抱き締められて温かい熱が伝わっているのに、背筋にはゾクッと寒気が走った。
『もしかして、昨夜柴田君が助けてくれたのは偶然じゃ…ない?』
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