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思考を停止しろ、と別の私がブレーキをかける。
…まさか、そんな筈は…
そうしなければ、辿り着く先は理解し難い迷宮だけだと、本能が告げていた。
『柴田君に限って』
全力で否定するも確かめられずにいられないのは、怖いもの見たさの誘惑と同じ原理なのだろう。
ゴクリ、と…小さく生唾を飲む。
「…柴田、君?」
「…はい。」
お互いの声が擦れて、緊張が走る。
『聞いてはいけない』
複数の私が揃って引き留めるけど、次の瞬間には…
「勘違いだったらごめんなさいね?もしかして貴方……マゾ…だったり、するのかしら…?」
口を突いて出た言葉に、即座に激しく後悔していた。
何故なら…
『マゾ』と言った途端に、柴田君の身体が大袈裟なまでにピクリと反応したから。
そして間を置き、諦めたように吐き出された溜息がひとつ。
「…バレちゃいました?」
「っ!」
直後に硬直し、全身に鳥肌が立った。
差別をするつもりは毛頭ない…でも。
これまで共に過ごした人懐こい好青年は、偽りの仮面を被っていたのかとショックを受けてる私がいるのも事実。
自分を棚に上げて何だけれど、類は友を呼ぶと言うか、私の周りには裏表を使い分ける姑息な者ばかりしかいないからこそ、唯一ピュアな存在でいて欲しかった、のかも知れない。
…独りよがりの願望だわね…
若かりし頃に体験した醜悪な記憶までもが蘇り、気分は最低最悪だった。
「は、離…」
「離しませんよ。…ったく…誰のせいでこんな性癖になったと思ってるんスかねぇ…?」
「…え?」
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